NETOGE HAIZINGと仮想化技術 前編

RAYは、日本のコングロマリットに勤める企業戦士である。彼は、勤続年数15年を超える、日本の高度成長を支えた人間だ。しかし、一旦退社をすると、その本領をサイバースペース - NETOGE - で発揮し始める。NETOGEは、日本で多くの人間を魅了する、インタラクティブサイバースペースだ。そこで強さを求め、人とは違う「気」を放つのがNETOGE HAIZINGだ。RAYもその一人である。

NETOGE HAIZINGになるには、2つの素質が必要である。一つが、生きる時間をNETOGEに捧げる精神である。NETOGE HAIZINGの中には、己の属する企業や学校を辞め、人生の全てを捧げる人間も多い。もう一つが、 - 他のあらゆる分野がそうであるように - 金である。NETOGE HAIZINGであることは、あらゆる人間活動の結果と等しいと言ってもいい。魅力的なアイテム、人を凌駕する能力、そして、関係が疎になりがちなサイバースペースでは稀な人からの信頼を得るには、金が必要である。

NETOGEにおける時間と金が最も強力に作用するのは、仮想世界ではない。現実とNETOGEとの架け橋となる、MACHINEである。NETOGE HAIZINGにおけるMACHINEとは、一般プレイヤーの持つような単なるPCを意味しない。それはPCの枠に納まりながら、一部の分野、グラフィックやインタフェースでPCを遥かに超える、戦闘のための道具である。

HAIZINGが一定の領域を超えると、MACHINEにも質的な変化が起こる。一人が一つのプレイヤーを動かすもの - PERSONAL - ではなく、複数のプレイヤーを同時に動かすことが要求されるのである。NINJAは日本では既に絶滅した。しかし、彼らはサイバースペースで、NINJUTSUのBUNSHINのように振る舞う。その意味で、彼らは日本人をNINJAたらしめた素質を、実力によって開花させたと言ってもいい。グラフィック、インタフェース、複数プレイヤーの操作、この3つによって、HAIZINGは時間と金を最も効率的に運用する方法を身につける。

さて、RAYは、既に複数のプレイヤーを動かすために、多くのPCを所持していた。RAYがHAIZINGであるNETOGEは、枯れたテクノロジーを用いているため、高度なグラフィックや難しい操作を必要としない。その代わり、HAIZINGになるためには多くのプレイヤーを同時にログインさせ、操作させなければならなかったのだ。

RAYには、HAIZINGをさらに極めるために一つの障壁があった。彼には、二つのNETOGEのための場所が存在した。企業戦士として戦いに赴くためのAPARTMENTと、NINJAにとっての里と言えるJIKKAである。RAYは、企業戦士としての立身を遂げ、KOUKOUをしているため、親との関係が良い。そのためJIKKAにもよく帰っているのだが、NETOGEのためのMACHINE群は、全てAPARTMENTに置かれている。JIKKAでNETOGEをする際は、APARTMENT程のHAIZINGを行う環境が整っていないのだ。これでは、HAIZINGとしての能力を十二分に発揮できない。

これを解決するため、RAYはまず自力でハードウェアの調達を行った。まず、持ち運びのできるパワフルなMACHINEである、Mac Miniである。RAYのシステムには元々Mac Miniが複数台あったが、それらとは違い、今回はJIKKAに持ち運べるポータブルなものとして位置づけていた。もう一つが、バスパワー駆動の可能なUSB MONITORである。これにより、JIKKAでも複数のモニターでプレイヤーの状況を把握できる。

RAYの新しいMACHINEの重要な特徴は、仮想マシンによって複数のNETOGEを一つのMACHINEで動かせる点である。RAYの考えでは、Mac Miniを2つの仮想マシンを起動させ、元のOSと合わせて3プレイヤーを動かすようなMACHINEに仕立てようとしていた。しかし、彼はその技術については知っていたものの、具体的な実現方法に関してはあまり知らなかった。彼は、エンジニアではなく、 - 日本の企業戦士の花形である - 営業だったのだ。

RAYはこのMACHINEを完成すべく、日本のHENTAIのフィクサーであるNoomoteと、Hacker's Cafeのniryuuに相談してきた。それが、私の仮想化技術を深めるきっかけとなったのである。