MADの著作権、利益分配の問題はニコニコ編集ソフトでどうにかなる

ニコニコ動画の急激な情勢の変化で、既存モデルによらない収益モデルの試案が増えてきた。その中でも重要な論点だと言えるのが、「MADとオリジナルの関係をどうするか」だ。個別の動画にどんな形であれ経済的フィードバックがあるとすると、当然出来のいいMADに対してはオリジナルと同等くらいのフィードバックがあってもおかしくない。そこで、MADに入った収入の一部をオリジナルに還元する仕組みというものが考えられる。

角川は、まずもってMADへの収益モデルを提示した。

 角川グループが権利を持つ作品の無断投稿を確認した際は、そのまま公開するか、削除するかを、各権利者と相談して決める。無断投稿でも権利者の許諾が得られれば、認定マークと広告を挿入した上で公認動画として公開する。

 識別ツールは、権利者が動画をあらかじめ登録しておけば、YouTube上に投稿された動画から同じ動画を自動抽出する仕組み。今のところ、角川作品なら9割程度の精度で判別できるという。

 新規に投稿されようとしている動画が権利を侵害している場合は「この動画は著作権を侵害している可能性があります」と表示して公開をいったん保留し、公開するかどうかを権利者が判断する。

 権利者が許諾した場合は「認定マーク」を動画ページに付けて公開する。ページには関連グッズやDVDなどのバナー広告を掲載するほか、動画の下部に半透明の広告を10秒間ほどオーバーレイする「InVideo Ad」も掲載する計画だ。広告収入は権利者に分配し、動画再生数なども伝える。
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0801/25/news044.html

また、以下のブログでは「はてなポイント」を基に収益モデルを考えている。

MAD動画の作者にも「ニコポイントを使って寄付する」というのを実現させるためには


YouTubeで言う広告のようにいくつか権利者が納得できるような条件が必要となります。そこで、一番簡単なのは、「寄付されたポイントを権利者と動画投稿者の間で分配する」ことです。動画の種類や、動画の完成度、そこから見て取れる労働量などは、動画によって違うわけですから、権利者がケースバイケースで分配額を決めていくことが理想だと思います。いわゆる権利者が公認したいMAD動画を探すにあたって、同時に削除するべき動画も観て回るわけですので、これまでの「削除人を雇わなければいけない」というような状態よりも、かなり有益な作業になりうると思います。

寄付するにあたって、「権利者が自分の寄付を差し引いてる」という考え方は間違っていて、その権利者がその素材を提供してるわけですから、そういう意味でも「権利者と投稿者の両方に同時に寄付できる」という考えであるべきです。権利者側から、ボーナスとして直接投稿者にポイントを寄付することがあっても良いかもしれません。

http://d.hatena.ne.jp/ronri/20080227/1204041376

この上で、それを促進する広告のあり方についての議論を続けている。

以上2つを見ると、オリジナルとMADを結びつけるためにまず「公認」という作業が重要となることが分かる。これは、例えば初音ミクに見るように爆発的な流行が起きた場合の負荷を考えると、人力では比較的簡単な作業ではない。しかし、前者にあるように動画自体のデータを見てオリジナルが含まれるか確認するというのも、問題が残る。

まず、例えば同人の絵(や根気がいるが映像)を書いた場合など、オリジナルと明らかな関連があるものを汲み取れないことになる。また、これを機械でやるのはまずいのだ。著作権云々の前に、人間のリスペクトなどが全く介在しなくなってしまう。

その2つを一気に解決する仕組みが、ニコニコ動画公式の動画編集Webアプリだ。例えば、YoutubeにはAdobe謹製の「Youtube Remixer」がある。また、ニコニコ動画(RC2)発表時にもアナウンスはされていたものの、未だ音沙汰がない。これを利用するのだ。

具体的には、まず各オリジナル動画に、派生動画にどれだけ分配するかを決める機能をつける。0でもいいし、100%でも構わない。それによってMADがどれだけ流行するかが決まる部分もある。その上でニコニコ動画と編集ソフトに連携機能を付ける。編集したい動画をニコニコで見つけたら「素材として利用する」ことができるようにするのだ。これを利用した瞬間に、オリジナル動画がどれかというのが分かる。そして、編集して動画をうpして、そこで利益が出た瞬間に、自動的に決められた分配率で利益が分配されるようになる。

これにより、編集ソフトを利用するユーザー全員に公認が与えられ、著作権がクリアとなる。オリジナルに貢献したいユーザーはどんどん編集ソフトを使うことになる。それを使わない人間は、今までどおり削除すればいい。もちろん外部の編集ソフトを使えないということではなく、動画をうpする際に素材として利用されている動画を明示することも出来る。

そう、これは技術でどうにかなるのだ。しかし、技術の使い方が違う。この方法では、ユーザーが実際に利用する過程というのを汲み取っている。あくまで決めるのはユーザーなのだ。その意味で、計算により正しいか否かを決めるようなシステムとは決定的に違う。例えばGooglePageRankは、ユーザーのリンクを張るという行動を計算式に反映させている。まずユーザー行動があり、線形代数はその後だ。これはある意味での人間中心設計、ユーザー中心設計だ。

ニコニコ動画のようなメディアでは、コミュニケーションでもコンテンツでもなく、正に人間とシステムの関わりに注目しなければならない。これだけ創造活動が活発になった状態で、押し付ける形の「ユーザー経験」や旧来の広告モデルに還元する行為や「繋がりの社会性」などは通用しない。人がMADを作るときにどうするか。それを考えたり、観察すればいいだけのことだ。