地域資料とオープンデータに関するメモ

Calendar for CivicTech & GovTech | Advent Calendar 2021 - Qiita

 私は、今年3月まで6年間図書館・情報学の大学院博士課程で、Webにおける共同作業による専門的知識に関する研究をおこなってきた。それまではオープンデータ関連に関わっていたので、オープンデータを研究対象にすることも考えたが、今はまだ時期尚早、オープンデータで博士号を取るのはリスクが高すぎると考えた。それと同時に、入学後オープンデータ関連のことをするのもやめていた。やってしまうからだし、どちらかに集中しないとどちらもできない。とはいえ、国会図書館でハッカソンに参加したら好評だった

 オープンデータ、特に行政データに関しては、従来から知識を扱っており、公共性もある市民に開かれた図書館が重要な役割を果たせるのではないか、というアイデアが定期的に提起されてきた。一方で、図書館は今のところ多少オープンデータに取り組んではいるが、行政データのオープン化推進の中心的な役割を果たしているとはいえない。そのGapとして、図書館の実際がオープンデータの理念とかけ離れたものではないかと考えていた。しかし、それを言葉にできないでいた。図書館も公共施設であるため、「図書館や資料に関するオープンデータ」はあるが、図書館がオープンデータ自体を推進することはあまりない。

 そんな中、2018年に根本彰先生が「図書館はオープンガバメントに貢献できるか」というワークショップを開催した。当時私と根本先生は同じ専攻におり、当然情報も流れてきたのだが、本気になったらそっちに行ってしまうという危惧から参加しなかった。しかし、その後先生がブログでワークショップの意図について公開したのだが、そちらの方が驚くべきものであった。

oda-senin.blogspot.com

 ワークショップの着想のもとになったのは、行政資料や行政支援サービスを含む地域資料論である。そのアップデートが求められている状況で、オープンガバメントというテーマを、図書館の中立性とオープンデータの透明性を踏まえながらも行政資料に関する議論の呼び水とする「実を言えば単なる思いつきだった。」と述べている。

 ワークショップの結果としては、意見はまだ漠然としたもので、「参加者の多くはこの問題には解決策が用意されているのではなくて、これから皆でつくっていくべき性質のものであることをご理解いただいたのではないかと思う。」ようだ。

 しかしながら、オープンガバメント・オープンデータを地域資料の延長として捉えたことは注目に値する。確かに、2013年に地元の予算書と政策文書を図書館に見に行ったことがある。それらは当然図書館にあるのだ。とりあえずそれらがちゃんとデジタル化されて図書館から提供されていたら、例えば「税金はどこへ行った?」などの展開は大きく変わっただろう。2018年から地元の図書館のデジタルアーカイブでは決算書が掲載されていたが、ライセンスの問題などもありオープンデータとして一端に扱うのは難しいだろう。あと、新しい決算書を掲載して欲しい。

 デジタル庁の発足に見るように、日本の行政の仕方は驚くほど変わっていない。その時代から行政資料の公開をおこなってきた図書館の地域資料取り扱いの方法は注目に値するだろう。オープンデータは単に公開されたものだけではなく、それを公開する行政などの過程がある。そこを解明できたらよりデータの改善や公開の推進につながるだろう。その過程に昔から関わってきた図書館から学ぶものは多くあるだろう。というかこんなものが隠れていたのか。

 しかし、根本先生の考えはペシミスティックである。図書館における行政資料の公開は利用者のニーズがなく、また図書館への評価にもつながらない。だから廃れてきた。ブログ記事(2)の最後はオープンガバメントに踏み切るべきだが、そうできないジレンマで締められている。

 しかししかし、それは図書館の事情だけを見た話にも思える。図書館の地域資料は一端に報告書が出る(2014-17)程度には成功している。一方、積極的にオープンデータ・オープンガバメント・シビックテックに関わる人はまだまだ少ない。比較的新しいから曖昧な評価は得られるが実績を出せないと長期的な評価にはつながらないだろう。事情はだいたい同じだが、こっちはポジティブだ。技術者ややっていく気持ちのある行政の人間が少しでも状況をよくできるかもしれない。だから、図書館とオープンガバメントの関係については、オープンガバメント側から今一度答えるべきだと考える。

 これを図書館員側が見たら何をお気楽なと思うかもしれない。私も司書課程の講義を担当しておりオープンデータについて取り扱う予定だが、手放しでポジティブにはなれない。また、もう色々取り組んでいるという意見もあるだろう。しかし、まだ体系化されていない。そもそも、まだ十分な検討はされていないし、検討する価値はある。まずは勉強だ。