リモートワークと感情に依存した働き方について

気がついたら「リモートワーク」と名の付いた記事が3本目になってしまった。

まとめ

  • 普段感情を出すなって言われてるのに,相手の感情を読み取ることが仕事に必要だという状況がおかしいので,感情を表に出せる環境のほうがいい
  • 対面でのコミュニケーションでは,無駄に感情が必要になる。いろいろな方法を使って相手の感情を読み取ったりする場面を減らした方がいい。その方が安心して感情を出せる
  • リモートで感情がわかりすぎても困る。プライベートは大事にした方がいい

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 何日か前に id:daiksy さんのこのスライドを見てから調子が悪く,何かモニョっとした感情が頭の中を渦巻いている。

 というのも,このスライドで言われているリモートワークの難しさは,人が組織でやっていっていることがどれだけ感情という基盤に乗っているかということを浮き彫りにしているからだ。

 スライドの方を見てくださればわかるのだが,リモートワークにおいては,言葉によらないノンバーバルな情報や,感情,心理的な面などが伝わらないということが,本当の難しさだと主張されている。このような主張は多くなされており,弊社でも当然このような問題は起こっている。

私はここでいくつかの疑問をいだいた。

  • そもそも,現場/リモート問わず,仕事を進めるのになぜノンバーバルな情報や感情が必要なのか?
  • 「感情を表すメタ情報」を増やすのはよくないのでは?
  • そもそもそもそも,「仕事では悪い感情を表に出さないほうが良い」ということが言われている上で,悪い感情を推し量って読み取るというのは,不効率で無理難題なのでは?

1つずつ消化していく。「まとめ」と順番が前後しているのですが,ご容赦ください。

そもそも,現場/リモート問わず,仕事を進めるのになぜノンバーバルな情報や感情が必要なのか?

 えっと,必要ないと言っているわけではない。ここで疑問なのは,本当は仕事のフローや文書などでどうにかできるはずのことを,対面的なコミュニケーションに頼ってしまうことが結構あるのではないかということである。対面のコミュニケーションでは,感情は意図がなくてもよく伝わってしまう。そして,それを使うことで円滑なコミュニケーションが可能になる側面もある。なので,感情を使わなくても良い種類の情報交換に,細かな感情のやりとりが必要になるという場面があるのではないか。

 つまり,「リモートワークのコミュニケーションで感情が伝わらない」というのは結果論で,「普段のコミュニケーションを感情に依存するスタイルでやっているから,リモートだとうまくいかない」ということではないかと考えている。要は,我々は感情に振り回される仕事の仕方をしている。そうだとしたら,感情をより伝わるようにする以前に,感情が必要ないコミュニケーション方法や情報管理の方法を導入したほうが良いと思う。そして,感情が必要な場面に感情を読み取る力を集中させたほうが良い。

「感情を表すメタ情報」を増やすのはよくないのでは?

 上記スライドの方では,感情表現をリモートワークでなんとか再現しようという方向に行っているが,正直それはうまくいかないと思う。例えば今のVRの進展を見ればわかるように,将来的には,リモートで対面と同じくらいの感情が伝わる可能性は十分にある。

 しかし,あの,こう言うと非常にあれなのだが,それは人の感情を強く感じてしまうような,つまりオフィスにいるのと同じなのではないか。そして,例えば自宅なり自分の好きな場所がオフィスになってしまうということは,プライベートな場所に仕事が強く介入してしまうことも意味する。それは恐らくあまり良くない。人間には侵されたくない場所があると思う。

そもそもそもそも,「仕事では悪い感情を表に出さないほうが良い」ということが言われている上で,悪い感情を推し量って読み取るというのは,不効率で無理難題なのでは?

 以前から気になっていたことがある。「職場では悪い感情を出さない方がいい」という主張だ。これはいわゆるポジティブシンキングやライフハックの文脈でも言われており,またチームや組織をうまく回すプラクティスとしても主張されている。要は悪い感情は場に伝わってしまい,ギスギスして良くないという考え方だ。そして,感情を一旦棚において,悪い感情のもととなっている問題を分析することを良しとする。

 私はこの主張にひどく反対している。悪いことが起こったら悪い感情が起こるのは当たり前のことだ。そして,「真剣に辛くて悪いことに直面している」ということは,単なる問題の提示だけでは伝わらない。そういうときこそ感情が必要なのではないか。これはスライドの方にも「心理的安全」として言及されている。

 要は,矛盾する2つの規範が組織で働いているのではないかと思っている。片方は感情を出さないほうが良いというもので,もう片方は感情を出せるほうが良いというものだ。これにはもちろん程度問題もあるだろう。やはりブチ切れるのは相当に特殊な状況でないと厳しい。逆に過度に感情を出せない状況で相手をネチネチと追い詰めることも起こる。

 しかし,根本的に感情はうまく扱われていないように思う。悪い感情を表に出すべきではないが,相手がどう感じているかというのは必要だ。その結果として,ノンバーバルなコミュニケーションや空気感など,言葉に現れないものが必要になる。この状況はおかしい。自分から問題を難しくしている。

 私は非常にシンプルにこう思う。感情を言葉で出せばいい。「辛い」とか「嫌な感じです」とか言えばいい。良かったときは喜べばいい。自分が手塩にかけて作ったプロダクトが「全然だめだよこれ」と言われて,名誉挽回のために1年尽力し,「凄い」しか言われないようになったということが最近あったが,もうこういうのは羽目をはずして喜ぶしかない。恐らく,普通に悪い感情を出しても,そんなに空気がガラッと変わるほど影響はないと思う。特にリモートだとそうだ。ガラッと変わるときは本当にやばいときだ。そんなときにポジティブを保つのは,感情を直接出さない場合でも,難しい。

結論

まとめを再掲すると

  • 普段感情を出すなって言われてるのに,相手の感情を読み取ることが仕事に必要だという状況がおかしいので,感情を表に出せる環境のほうがいい
  • 対面でのコミュニケーションでは,無駄に感情が必要になる。いろいろな方法を使って相手の感情を読み取ったりする場面を減らした方がいい。その方が安心して感情を出せる
  • リモートで感情がわかりすぎても困る。プライベートは大事にした方がいい

 つまり,私の主張としては,基本的に感情はスムーズに出せたほうが,わざわざ「感情を読み取る」難しい方法をとらないで済むので結果的に楽になると思う。それを可能にするために,コミュニケーションの方式を感情に振り回されない形に変えていく。最後に,仕事とプライベートのメリハリはちゃんとつける。それがリモートワークが浮き彫りにした,より良い仕事における感情の扱い方なのではないか。

補論

 荒削りな分析になってしまったので(主に寒くて体調が悪かったのが理由),いろいろフィードバックを頂いた。

 その中で特に曖昧に議論してしまったこととして,「感情を爆発させることと,感情を出すことは違うだろ」というのがある。それはそうで,感情の爆発は抑えるべきだ。あと,感情の赴くままに人を罵倒したりするオッサンみたいなのは本当に嫌だ。一方で,私の経験上普段感情をうまく表に出せないことと,最終的に感情を爆発させることは連続しているように思う。

 苦境をうまく伝えられず状況がドンドン悪くなっていく中で頑張って,その最終的にどうしようもなくなった時(その時はプロジェクトもめちゃくちゃになっている),感情の爆発が起こったりする。いわゆる「キレる」だけでなく,突然休職したり辞めるのも,ある種強い感情の爆発と似たようなものだと思う。その意味で,感情の爆発という最後の逃げ道を塞いでしまうのはどうなのかなーとは少し思う。どっちが良いのかはわからない。

 こういった問題については,やはり論旨は変わらず,普段から感情や状況への認識がうまく伝わっているなら,感情の爆発がそもそも起こらないように,事前に防げることが多いと思う。

 あと,「プラス感情の長所や雑談の良さ」については,見て明らかな感じではないが,重要な役割を果たしていると思う。

 まあともかく,仕事と感情の関係というのは,もっと議論されると良いんかなーという印象がある。盲点や経験則になりがちなので。