コミュニケーション負荷の少ないチームにするという方向性

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に一応反論というか,別の方向性を提案しておく。

 基本的に,人は悪いことが起こることや,悪い感情を持つことから逃れることはできない。これは宗教から心理学まで様々なアプローチに見るように,数千年経っても解決されていない。例えば,怒りを持った場合「怒りの原因を突き止め,別の方向に感情を逃がす」という方法は,何度も再発明されてきた。その点で「口の悪い人間」は一部しかいないが,全く「悪い人間」でない人間というのはいないと思う。

 なので,「口の悪い人間」というのはあくまでコミュニケーションにおいて表に出す方法の問題で,そもそもコミュニケーションに気を使うか,どこまで気を使うかという問題から,どう気を使うかまで含まれる。これは文化に依存するが,概ね嫌われるパターンと言うのはあると思う。逆に,悪さなどを表に出す人間でもそれがうまければ問題にならないと思う。例が出てこないのでそういった人は少ないと思うのだが。その点で,「口の悪い人間」問題がおごちゃん様の仰るように主観に依るというのは同意できる。

 ということを踏まえた上で,なぜ「口の悪い人間」が問題になるのかを考えたい。私は,これはそもそもコミュニケーションの量が増えたからだと考えている。例えばソフトウェア開発にしても,対処すべき問題がどんどん複雑になっている。このため,個々人で完結できることは減っており,報告や交渉,調整を必要とする事柄は放っておくと無秩序に増える。その中で,「口の悪い人間」は問題となる。

 その中で,コミュニケーションに意図的に制限を加え,組織として統制を取る官僚的なシステムは,うまく対応できていない。そのために考案されたのが「チーム」である。少人数で密接なコミュニケーションを取ることにより,個々の能力を最大化し大きな問題に対処していく。アジャイルを始めとしていろいろな方法があるが,基本的な部分は共通している。官僚的な組織でも,チームの要素を取り入れたり,自発的に起こるチームの重要性が指摘されている。

 チームでは,コミュニケーションが増える。それどころか,チームワークをうまくいかせるパターンとして「コミュニケーションを密接にとること」が規範とすらなっている。しかしここで考えたい。これは本当に正しいのだろうか。本当にコミュニケーションが必要な局面はどれだけあるのだろうか。口頭で即座に答えなければならない事柄はどれだけあるのだろうか。

 私は,チームワークにおいてコミュニケーションは確かに重要だが,それゆえ統制されず「結果的に」増えてしまった側面もあり,それは見過ごされていると考えている。例えば,ナレッジベースやWikiなどのシステムを効果的に活用しているチームでは,そちらの方で非同期的にコミュニケーションを行える。口頭でのコミュニケーションではなく文章として問題点を書いていく場合,そこに「口の悪さ」はあまり現れない。「こういった状況でこういった問題があってこうしていきたい」といった内容を説得的に記述していく際に,感情面は薄れてしまうからだ。そのような「コミュニケーションを減らす」技術なり手法があるのに,使わないで口頭に頼るということは,結果的にチームの効果を下げると考える。もっとも,書き言葉にすればよいというものでもない。書き言葉で悪い言葉が流通しているということは,インターネットを見ればわかる。

 要は,コミュニケーションの量や方法を良い方向に持っていく努力ができ,結果的にそれはチームを強靭にすることにつながると考えられる。コミュニケーションが増えるということは,個々人がコミュニケーションにかける時間的精神的コストの増大も意味するので,常に良い方向とは言えない。様々な手段や技術を用い,コミュニケーションのコストを下げ,その上で口頭のコミュニケーションを効果的な方向に集中させるやり方があっていいと思う。

 その意味で,「口の悪さ」が「職場の雰囲気をギスギスさせてしまうこと」につながってしまうということは,チームのあり方の方にも問題があるとも考えられる。例えば,悪い感情を実は皆押さえ込んでおり,それでチームが回っているとすると,悪い雰囲気は容易に伝搬してしまう。また,悪いコミュニケーションにちゃんと不寛容なチームなら,1人の口の悪い人間は居心地の悪さを感じ,自ら去っていくだろう。

 ということで,「口の悪い人間」が顕著に問題となるチームは,どこかに弱点があるのではないかと思う。そして,安定した状況では問題とならないが,デスマーチなどではその弱さが顕著に現れる。平和で和気あいあいとしたチームがどこかで暗転するような,恐ろしい現場を何度か見てきた。しかしそれは往々にして「口の悪い人間」が引き起こしたことではない。普通の人が悪くなってしまうのだ。そして,口の悪さより悪いものは多く存在する。例えば客の無茶な要求に耐え続けニコニコとし続けた結果,チームがぼろぼろになることはある。

 口が悪い悪くないに関わらず,口の悪い人間が問題となるチームと,問題とならないチームだったら,後者のほうが健全だと私は考える。個々人のせいにして終わらせてはいけない。

 もっとも,どんなチームであろうと最終的には現場がうまく回れば良い。うまく回りさえすれば…