橘ありすと「クール」 - SSR[ありすのティーパーティー]橘ありすを深読みする
「ガード下 Advent Calendar 2017」を作ったはいいが、私のガード下についてはこの記事で既にまとめてあり、特に書くことがない。
なので、アイドルマスターシンデレラガールズの記事を書きます。
クール・タチバナの衝撃
アイドルマスターシンデレラガールズについては、今はいろいろな展開があるが、私はアニメから入った。モバゲーの方は2012年にエンジニア界隈で大流行したが、私はその波に乗れず、2016年にようやく始めた。
アニメを見たきっかけは、私の行きつけのバーが事実上のアイマスバーとなっているので、話を合わせるためにアニメを見ようと思ったからだ。とはいえ忙しく、アニメを全部チェックするほどのオタクでもない。面白いものを選んで視聴している感じだった。「私がこのアニメを観る理由はなんだろうか」。2話を5回観た。正直CPのみんなについては決め手に欠けていた。そんな中、目にかかったのが上条春菜である。春菜を目当てに視聴を決定したが、春菜が次に出てきたのは16話である。
さてアニメ終盤、デレステが登場した。私は相変わらず春菜Pだったし、比奈、ユッコなどにも目を向けていた。そんな中、「敷居が高そう」と感じたのが橘ありすである。いっぱんに真面目な小学生というのは苦手だ。そう思っていた。
2016年3月、ありすが上位報酬のイベントが開催された。モバゲーの方では「ありすゲーム」と呼ばれるくらい熾烈なイベントがあったらしいので、単にイベントを楽しむために走った。結果的にイベントは大して熾烈ではなく、SR[オンリーマイフラッグ]橘ありすは簡単にお迎えできた。
その後、特訓後のコミュを見たところ、激しい衝撃を覚えた。自分がより年上のアイドルに追いつけないことを話している際に
そもそもプロデューサーもいけないんですよ。
私をあまり大人扱いしないから、
いつまで経っても差が詰まらないんです。
という発言が出てきた。
--- 俺、何で怒られなきゃいけないの… ---
まあとにかく先を見よう。自分でいろいろ考えたらしい。
クールジャパンから発想を得た案……
名付けて、クールタチバナです。
今までに着たことのない衣装で、新しい一面を…
エッ、クールジャパンかよ…どこから発想を持ってきているんだ…
そして、クール・タチバナ後の「ホーム」画面、「ルーム」画面での
もう、ただの優等生ではありません。絶対的な橘が、ここにいます
(P)さんの反骨精神を、私も取り入れてみようと思って
旗を立てましょう。ここに。問題ありますか?
出口へ導いてください。いえ、部屋のではなく、心の!
といった尊大な発言に徐々に「個性的だなー」と思い始め、熱狂的に吹聴した。当時失踪していた友人にクール・タチバナについてメールを送った。返事は来なかった。私が個性的だと思うというのは、だいたい将来的に惹かれていくということである。
ストーリーから外れていくクール・タチバナ
ところが、ありすは親愛度が最高まで上がると
アイドルとして、やっと一歩前に進めた気がします。これでもう、私を子供だと思って笑う人はいなくなるでしょう。
な、なんですか?ほめないでください、(P)さん。せっかくクールに決めているのに、スキがあっては……。
もう、冷やかさないでください。顔が崩れます。くっ…クールタチバナはここまでです!つぎも新しい私をしっかりお願いしますからね。
と、クール・タチバナをやめてしまう。 そして、デレステにおけるありすは違う方向に進んでいく。
1) 一人の人間として「素直」になっていく橘ありす
私はモバマスに途中から入り、ありすのカードも最近のものしか持っていないので、実のところあまり語る資格がない。しかし、ざっと様々な記事を見る限り、「素直」になっていく過程が、1つのメインストーリーだというのは認識していた。そして、それゆえにプレゼンで自分の趣味を出すことを実現し、魔導師を基調とした[ひかりの創り手]や、当時流行っていた動物のアニメに明らかに影響を受けた[賢者の翼]など、様々な展開が可能になったのだと思う。
というか、ありすは最初からそのような素質を持っていた。この男の記事を引用する。
彼は本物の男で、本記事でありすについて深い洞察のある記事を書いたあとに
残るは自分の未熟な技量しかない訳です。これを克服しない事には、本気で何とかしない事にはとてもじゃないけど「橘ありすのプロデューサー」は、僕には名乗れません
(中略)
という経緯の元に、「強いオタクになるための修行」のために時間を作る必要があると感じました。そこで色々と考え、現時点で一番時間を消費しているのがTwitterだったのでアカウントを削除したという事です。
と言ってしばらくいなくなってしまった。私の「ありすP」に対する考え方は主に彼の在り方から来ている。それゆえに私も「ありすP」を名乗ることはできない。
閑話休題、氏はぷちデレラの衣装の名前に目を向ける。
で、なのですが。そんなN+のありすが身に纏っている衣装の名前、皆さんは御存知でしょうか。ぷちデレラの登場によって明かされたその名は「リミットレスギャラクシー」といいます。直訳すれば「無限大の銀河」でしょうか。徹底的に自己と向かい合い、ありのままの自分を受け入れて歩むという決意を抱くありすが、「無限の可能性」を想起させる衣装を着て、ステージに立つ。そんな姿が最初のカードにおいて描かれているんです。実はこれって、とんでもないことだと思います。
この「無限の可能性」に向けて走り出したというのが、近年の動向だと思う。それを支えているのが個人としての「素直さ」である。自分の気持ちを素直に出せなかったら可能性は消えてしまう。だから、素直が必要なのである。これは、デレステでもクールタチバナの直後に登場したSSR[はじめての表情]橘ありすにおいても継承されている。そして、ストーリーコミュ「Be honest with yourself」において、ありすは皆の助けを借りながら難しい家庭の問題に対して「素直」になることができた。
2) チームの中で「素直」になっていく橘ありす
クール・タチバナが報酬となったイベント「LIVE Groove Vocal boost」では、初期を除いて基本的にイベント曲を歌うアイドル同士が一丸となっていくストーリーを見ることができる。クール・タチバナの場合は例外で、イベント曲である「Absolute Nine」をそもそもありすは歌っておらず、ストーリーもない。逆に、そうだからこそ「色物」ともとれるクール・タチバナを出せたのではと思う。
その後のイベントにおいて、ありすは他のアイドル達と交流を始める。一時期の勢いは凄かった。
- 4/30 生存本能ヴァルキュリア
- 6/20 咲いてJewel
- 8/19 Near to You
これらのイベントにおいて、ありすは他のアイドル達の長所を見るようになり、ぶつかりながらも交流し、張り合い、イベントを成功に導いていく。この一連のイベントのコミュを見たら、間違いなくそこに成長、つまり、チームとのうまい関わり方を覚えながら、チームの面々に対して「素直」になっていくありすを知ることができるだろう。
クール・タチバナの謎
以上の2つが、典型的なありす像だと思う。2)はデレステ全体の基調とも言える。デレステのコミュでしばしば批判されていることは、「チームを重視しすぎて個々のアイドルの個性が出ていない、もしくは表現が制約されてしまっている」といったことである。チームワークはたしかに美しい。でもそれだけじゃない。
それを踏まえてありすに話を戻すと、1つの疑問が生まれてくる。「何でクール・タチバナを登場させたのか」。クール・タチバナはチームとは間逆である。自分で理想像を考案し、その通りに尊大に振る舞い、プロデューサーにも楯突く。孤高である。
1つの説明としては、この孤高さは、後に来るチームワークによる成長との対比なのではないかというのがある。元々チームワークができているアイドルと比べ、最初が孤高だったアイドルは「成長物語」として綺麗に描くことができる。
しかし、これには違和感がある。それならば、最初の孤高さはストーリーの中で描けばよいことなのではないか。最初の方は人と関わるのが下手だったのが、後になるとどんどん経験を積んで成長していく。それでいいのではないか。わざわざクール・タチバナなどは必要ない。
実際、「生存本能ヴァルキュリア」のコミュにおける有名なやりとりで、クール・タチバナはさっそくネタになっている。
夕美:クール・タチバナだもんね。
ありす:どうしてそれを…… !
プロデューサーさんですか、そうなんですね ! ?
藍子:ふふっ。クール・タチバナ、楽しみにしてます。
前述の親愛度MAX時の自己による終了と、このやりとりによる「ちゃかし」で、クール・タチバナとしての橘ありすはかなり弱められたと言っても良い。
しかし一方で、1つ気にかかることがある。少なくとも、
- 親愛度MAXになるくらいまでは活動していて
- 他のアイドル達にちゃかされるくらいには知られていた
ということは、一時期でもクール・タチバナで活動しており、そして恐らくその試みは成功していたんじゃないか。そして、もっと言えばクール・タチバナの方針は何らかの形で続いているのではないか。
謎解き:自己提示としての「クール」
先日SSR[ありすのティーパーティー]橘ありすが登場した。ありすが皆のためにお茶会を開くというコンセプトのカードである。これは一見してクール・タチバナと対比され、「チームワークを通した成長」の成果に見える。しかし、単純にそうでもないのではないかと考えている。
まず基本的な事項を確認する。
あれこれ考えて、準備をして、みんなに来てもらって。わいわい楽しんでもらって、後片付けをして。本当に、楽しいお茶会でした。
みんなにちゃんと楽しんでもらえたことが、すごく嬉しくて。あの喜びは、なんだかLIVEに似ています。ファンのみなさんから、笑顔を向けてもらえるあの嬉しさに。
きっとこれは、昔の私が知らなかった喜びです。アイドルになって、いろんな人やいろんなお仕事と出会って、(P)さんに教わった、私の一番の楽しみです。(SSR親愛度MAX)
「みんなにちゃんと楽しんでもらえた」ということは、まさに他のアイドル達との交流を大事にしていた証拠だろう。それがこのカードに一貫する、前述した2)のテーマである。それに加えて、ありすは自分が考えて工夫したことを他の人に評価してもらったことも喜んでいる。
最初は、ただみんなに楽しんでほしくて準備をしていました。でも、あれこれ悩んでいるうちに、自分の方が楽しくなっていて。人を楽しませるのって……楽しいですね。うふふっ。
(SSR親愛度100)
中には、私が考えたことに気づいて、褒めてくれる人がいて。
それだけで、こんなに嬉しくて、誇らしいものなんですね……!(特訓後コミュ)
それを踏まえて、ありすはSSR+のプロフィールにあるように、お茶会で「クール」に振る舞うことをやめる。つまり、それまでは「クール」だったのだ。その点をもって、ありすは基本的に「クール」として自己提示していると考えて良い。過去のイベントコミュにおいても、ありすは「クール」という言葉を自分の理想として何度か用いている。その上での「素直さ」あるいは「チームワーク」があり、そして時にはクールであることをやめることもできる。そのトーンを提示したという点で、「クール・タチバナ」は必要だったのだ。「クール」はアイドルマスターシンデレラガールズの属性を表す語でもあるが、それは作中にはない概念なので、導入したのではないか。これを一旦の結論とする。
ここからは間違いを臆さない深読みに入る。
まず、「オンリーマイフラッグ」と「ありすのティーパーティー」は、構造が類似している。
- オンリーマイフラッグ:屋外のデリカフェで年上のアイドルにもてなされ、自分が追いついていないことを知り、クール・タチバナになる
- ありすのティーパーティー:お茶会を開くことでもてなし、そこから得られた喜びを学び、「クール」に振る舞うことをやめる
つまり、もてなしたりもてなされたり、といった人との関係が、自己提示を変えるきっかけになっているのだ。この類似点が気になって、さらなる類似点を探していたところ、ありすがお茶会「おもてなし」をやっていること、そのものに関心が行った。特に、ありすがお茶会を開くにあたって行った様々な工夫や「考えたこと」は「おもてなし」であるといえる。ある意味でもてなされる相手を考えない形で、「こういうのがおもてなしだろう」という像に基づく文化を与えているのである。つまり、
「おもてなし」は、クールジャパンである。
クールジャパンに発想を得た案がクール・タチバナなら、「おもてなし」をやっているありすは、実は、クール・タチバナなのではないか。
間違いを臆さない深読みでした。