リモートワークについて

はてなブックマークなどで「リモートワーク」に関する記事をいくつか読んでいるのだが、私の会社で数年間実践されていることとどうも合わないので、いろいろ書き留めておく。

Acknowledgements

以下に書かれていることは一つの特殊事例であり、読者の環境や感情に適合するとは限らない。組織の作り方、維持の仕方、テクノロジーの導入の仕方によって、時間的空間的にいろいろなやり方があるということを明記しておく。

Main Claims

  • リモートワークは、在宅など自由な空間で勤務するのみならず、時間も自由にし得る
  • リモートワークは、コミュニケーションを密に取る必要がある場合もあるが、無駄なコミュニケーションを省く基盤にもなる

本論

 近年「リモートワーク」を導入したという事例が特にソフトウェア開発の分野で盛んになっている。その中で、リモートワークは新しい働き方として認識されており、それをどううまく運用するかが一つの焦点になっている。しかし、現存するリモートワークのベスト・プラクティスにはいくつかリモートワークの可能性を狭めるような印象を覚える。

時間を管理するか自由にするか

 1つには、リモートワークが在宅勤務などの「空間を自由にする」働き方として捉えられているということが挙げられる。リモートなのでそれはそうだ。その中には様々な種類があり、完全にリモートに移行した企業もあれば、オフィスを持ち、一部の構成員が完全もしくは部分的にリモートで働くということもある。

 そこで即座に生じるのが、勤務時間の管理の問題である。オフィスがあれば、誰が何時に仕事を始めて何時に終わったかを把握できる(もっとも、ごまかしは横行しているが)。しかし、リモートだとそれができない。なので、擬似的に「出社」あるいは「タイムカード」を導入している事例が多い。もしくは、働いているかをカメラなどのセンサーで監視することもあるだろう。

 しかしながら、私はそういった会社で働くことができない。私は障害で時間を守ることができず、勤務時間が決まった会社では働けない。今の会社は「正社員、勤務先自由、完全フレックス」という条件で入社し、5年が過ぎた。現在は夜型の生活を送っている。それが最も効果的に働けるためだ。朝から働いたら精神を壊してしまう。「完全リモートワークで、週1日でいいから働いてくれないか」とのメッセージをいただいたことがあるが、その自信すらないので断ってしまった。

 また、勤務時間も不規則である、というか少ない。どれだけ少ないかというと恐らく週40時間働いているか怪しく、働いていない日もある(1日17時間働くこともあるが、ボロボロになった)のだが、「相応の働きをすれば問題ない」ということで問題視はされていない。そもそも知的作業に使える時間は1日の中で4時間が限度だろう。と書いたが絶好調なら5時間はいけるかもしれない。それ以上働くのは単純な事務作業なら良いかもしれないが、それ以上のことをやろうとすると生産性が一気に落ちる。というか、多くの場合マイナスになる。変なコードや文書を書いたら直さなければならないので。17時間働いた日は酷かった。

 ここまで読んで多くの人は「お前は給料泥棒じゃないか?」と思うだろう。週40時間働かないで正社員としてフルの給料をもらうなんておかしいんじゃないか。それに対しては一応「40時間は法定の基準であり、正社員かどうかとは関係ない」と述べておく。いわゆる変形労働時間制であるが、実質的に裁量労働制だともいえる。むしろ、賃金に見合う程度の成果を明らかに可視化しているし、そうなるようにキャッシュフローや会計面は把握している。

 ということで、時間も自由にして良いのではないか、それで問題ないのではないかというのが持論である。これに対してリモートワークはプラスに働く。通勤の問題と、オフィスの営業時間に縛られないためである。「時間を自由にすると働かなくなるんじゃないか」という意見もあるだろうが、それは人による。

コミュニケーションの問題

 リモートワークにすると、対面と比べてコミュニケーションが機会、量ともに少なくなってしまうので、密にコミュニケーションを取るようにしたらうまくいったというベスト・プラクティスがいくつか見られる。私に言わせてみれば、それだと困る。私はコミュニケーションにも障害があり、ビデオミーティングやチャットの曖昧な応酬だけでクタクタになって家でうずくまってしまう。

 さて、ここで考えてみて欲しい。そもそも、対面会話のように即座に伝えてレスポンスを受け取らなければならない情報というのはどれくらいあるのか。多くの情報はそうではなく、それにもかかわらず即レスを求めているのではないか。その場合、密にコミュニケーションを取ったら逆に混乱してしまう場合すらある。対面で、チャットでいくらでもそういった事例は見てきた。

 今はチケット管理システムやgit、ナレッジベースなどなど様々な非同期で情報を蓄積し、コミュニケーションを行えるツールがいくらでもある。それらをよく使えば、リモートワークもそうだし、オフィスワークにおいても無駄なコミュニケーションを減らせるのではないか。

 その上で対面のコミュニケーションが必要ならすればよい。私の場合、週1回の定例のミーティング(リモート参加がOK)のためにオフィスに行くことが多い。そこでたくさん喋ればだいたいのことは解決している。案件が炎上した場合、対面(わざわざ同僚に会いに新幹線で朝から移動したこともある)でもうまくいかなかった。

 もちろん、例えば企画職などで「対面で延々と話し続けないと仕事が進まない」種類の職業もあるだろう。あらゆる会話、書いたもの、見たものなどが重要になる種類の仕事だ。しかし、それらがリモートで可能になるのは時間の問題だと考えている。確かに今そういうことをリモートでやるのは不十分である。しかし、今後恐らくVR、AR系の技術が充分な密度の情報をやり取りできるような環境を提供できる可能性はある。

結論

 正直に言うと、勤務時間が決まっていて対面会話を再現すべく密にコミュニケーションを取る種類のリモートワークは、従来のオフィスワークと働き方そのものは変わっていないように思う。それより、テクノロジーをより積極的に使っていき、慣習を打ち破ってでも本質的な価値に集中したほうが良いのではないか。

 個人的な事情としては、時間を守れず、コミュニケーションもまともにとれない私が働けているリモートワークは、障害者など様々な働いていない人が労働に参加できる可能性を持っていると思う。それは働くことにとどまらないだろう。もっとも、政府のテレワーク推進がそんなことを考えているとは思わないが。