今やってる研究,勉強,生涯学習について

 昨日は某所の図書館・情報学の大学院説明会に行ってきた.いろいろな先生方と話しながら,自分の考え,即ち情報テクノロジーが人の日常生活にどう知性を与えるかという研究テーマに著しい甘さを感じた.回顧するに,これは単に自分の人生のテーマであって,自分が半生で見聞きして感じて考えてきたことをぶちまけているに過ぎない.これではだめで,研究テーマを成立させるには確固たる体系的な基礎知識と,自らの専門としての専攻分野の経験とそれを知らない人に伝える力,そしてそれらを接続する高度な文章の構成能力が不可欠である.

 そして,私は計算機工学と社会学を基礎としており,図書館・情報学の基本的なパースペクティブすら身につけていなかった.さらに,残念ながら修士を取ってから数年経った私には文章の構成能力すら失われていた.とにかく基本を学ぶのと,エッセイレベルの構成から始めていくしかない.そういった経緯でブログを書いている側面はある.

 それを裏付けるような結果が放送大学から返ってきた.放送大学では,1つの単位を取得するのに中盤での通信指導と,最後の単位認定試験を課される.私は昨年から修士専科生として,主に公共政策を中心に(オープンガバメントをやっているため,行政の方と話せる知識が欲しかった)学んでいた.今年は2年目で,科目の関係から学部の科目等履修生もやっている.まあ添削指導の結果がこのように返ってきた.四択問題については7割=B,8割=A,9割=A+とする.

  • (学部)代数の考え方:代数方程式を解け.最後で詰めが甘く,|y| を yとしていた.他はOK
  • (学部)記号論理学:一階述語論理の基礎からタブローまで.タブローがわからず雑にやったら全部間違えた.今はわかる.B
  • (院)基礎情報科学:オートマトン,計算量,帰納的関数など.A+
  • (院)データベースと情報管理:多様な人々が使うデータベースの主題索引の難しさについて.不確実性の観点が足りない.C
  • (院)社会経済組織論:近代的大規模組織の成立過程についての論述.ルーマンウェーバーでゴリ押ししたため最後が雑に.A
  • (院)計算論:オートマトンがびっしり.1問用語の定義を間違え.A+

 なんだこの履修科目は,最初の段落とぜんぜん違うじゃないか,というと,まあそれはそうだ.「社会経済組織論」は平たく言うとつまらなくて単位を落とした.再履修は無料なので受けている.これはこれで学ぶことがあるのだが,今年度リニューアルされて一気に面白くなったので,残念だ.一方,図書館情報学の大学院レベルの科目は「データベースと情報管理」ただひとつである.ちなみに,これはCで全然ダメである.不確実性については前提となっていると思い,ぶち抜いていきなりシステム寄りの話をしてしまった.根本的にパースペクティブがない.放送大学には,司書科目を除けばこれ1つしかない.それはそうで, 

シリーズ図書館情報学1 図書館情報学基礎

シリーズ図書館情報学1 図書館情報学基礎

 

によると,日本の図書館・情報学の大学院は1つ図書館情報学の大学院は1つ,ライブラリーサイエンスの大学院は1つ,教育学の中で図書館情報学をやっている大学院は3つと非常にマイナーな分野である.

 そして,なぜ数学や情報科学をやっているか.これには深いわけがある.「巨大数」という言葉をご存知の方もいるだろう.「とにかく大きな有限の数を創りだそう」という主題から「とにかく大きな有限の数を生成する関数を創りだそう」というアプローチをしている趣味人の集まりである.友人の影響で始めたのだが,とにかくわからない.この分野の先駆者となるふぃっしゅっしゅ氏の「巨大数論」(これを読んでいないと「巨大数論を読んだかね」と言われるらしい)を読んだところ,帰納的関数論を基礎としながら,主に2つのブレイクスルーがある.

 一つが順序数の導入である.これは集合論による数の定義が前提にあり,特に近年伸びてきた分野である(らしい)ため,基本的に公理的集合論となる.もう一つが数理論理学である.「関数を作り出す関数」は計算可能性の問題を引き起こし,カリー・ハワード対応により証明の体系と結び付けられる.また,最先端たるRayo数では一階述語論理そのものを操作の対象としている.このため,昨年12月,情報通信工学科を中退してから7年のブランクを経て,とりあえず現代的な集合論と数理論理学の教科書を購入して「50の手習い」と銘打って数学を始めた.

 さて,やり始めて段々気付き始めたのが,巨大数の分野は,数学というより情報科学の伝統に沿っているようだということだ.実を言うと,情報工学情報科学の違いというものにあまり頓着しておらず(実際に頓着していない学科もある.さらに言えば,米での Computer Science と Computer Engineering と日本のこの区別が対応しているわけでもなく,言ってどちらを指す場合もあるし, Information Science は図書館情報学である),情報科学が数学と密接である(東大や東工大では,理学部と工学部に分かれていたりする)ということにもようやく気づいた.

 そして,そのパースペクティブから言うと,数理論理学の応用範囲は(応用というと凄まじいおこが来る可能性もある.同型なものを扱うのなら同じことをやっていると言えないか)広い.ラムダ計算から始まる計算理論,型理論,形式的検証などのプログラミング言語を支える概念はプログラマフレームワーク作者にとって重要であるし,論理プログラミング経由でセマンティックWebの基礎からLinked Open Dataに至る.

 例えばオープンデータについて,基盤技術の最も基礎の部分から実際の市民のコラボレーションに至るまでを学術的な視点で見ることができたら,本当に贅沢なことなのではないか.もちろんこれは贅沢で慢心であるのだが,良さはある.

 まあそんなこんなで,大学で学べるものは学ぼうと思って片っ端から履修して今に至る.代数は,確か定番の数理論理学の洋書で,モデルの例として群を構成することが普通に行われており,暗黙にやってないやつは来るなを感じたため受講した.数理論理学は,12年度までそのままの科目があり,当時の教科書もあるのだが,論理学一般として「記号論理学」になっていた.これを担当する土屋先生には前研究会で興味深く話を聞かせていただいたので,これは間違いないと思い受講した.「基礎情報科学」は概論的な科目なのだが,「論理と計算のしくみ」を書いている萩谷先生がやっているので受講した.計算論は言うに及ばず.

 数理論理学や計算理論,帰納的関数論などにおいては,ウグー,グエー,俺はもうだめだなどが常に発生する.その中で頭をフルで使い,手を動かし,時にコードを書き(海外ではコードを書いて計算を構成する講座もあるようだ),なんとか少しずつ理解していく.そして少し基礎が固まって応用分野を読むとこちらもスーッとわかる.まあ実際のところそれの繰り返しで,人生に面白いこともなかったしどろどろにはまっていった.

 そこで気づいたのだ.数理論理学や応用分野ではウグー,グエー,俺はもうだめだなどをやっているのに,社会学でも情報工学でもやっているのに,図書館・情報学ではそれをやっていない.これは慢心である.こんなもんじゃ話もまとまらないに決まっている.もっとも,俺は情報科学に進む気は全くない.そこに俺が明らかにしたいことはない.知りたいだけだ.一方,俺が明らかにしたいことはある程度図書館・情報学と近接している.だとしたら,ウグー,グエー,俺はもうだめだなどをやる必要がある.それ以外に道はない.

 恐らく,普通の博士課程に進む人はもっとスムーズに自分のやりたいことを表現し,こなしていく.それが俺にできていないどころか,面白いことにうつつを抜かしているのは,俺の生き方がただただ下手で,完全にだめであるということに他ならない.それはわかっている.すべての出発点であるのだから.俺はだめだから,情報テクノロジーに活路を見出した一人の人間である.