スタートアップや非営利部門でのタダ働きについて

周りを見ていると、スタートアップや非営利部門でタダ働きをしている人をちらほら見る。まだ金銭の生じていないプロジェクトへのアサインから、いわゆる「プロボノ」までいろいろな言い方があるが、自分が責務のある(とされる)仕事をして、金銭を受け取らないことを一括して「タダ働き」と呼ぶ。

基本的に、タダ働きはそこまで悪いこととは思わない。人は給料のみを労働の対価として受け取るわけではないし、素晴らしい成果やスキルの向上など、他でできないことが出来る場合も多い。給料を無理に求めることによる、そのような対価の損失を考えると、単に「金貰えよ」と言うのは難しいと思う。

一方、状況の変化やマネジメントの曖昧さによって、恐ろしく不毛でかつダメージすら受ける状況において、なおタダ働きを続けて抜けられないケースがある。そのような「失敗」は、金を貰う場合と較べて非常に起こりやすいし、実際に頻繁に起こる。以下では、私の経験からタダ働きの現状をどう評価するか、あるいは何が起こったら悪いサインかをまとめることで、後進に役立つような情報を提供したい。

自分の「タダ働き」をどう評価するか

基本的に、金銭以外の方法で、自分の貢献を評価するのは難しい。例えば、行政が国や地域をどう良くしたのか、についてはプロでも納得の行く結論が出なかったりする。一方、我々が個人としてタダ働きをする動機は、そこまで多くないだろう。以下に列挙する。

  1. 将来的に金銭的な利益を得られる活動である:スタートアップの大半がこれにあたる。始めたばかりのサービスは収益を産まない場合が多い。しかし、将来的に収益を得られる場合がある。そのような十分な見込みがあり、かつ十分な情報がある場合は、今タダ働きをしても良いかもしれない。
  2. 社会的評価を得られる:金銭でなく、それをやることが社会的に意義があり、コミットすることによって個人が評価される場合は、タダ働きによって社会的評価を得られる。
  3. 将来につながる:例えば実績不足でウェブなどの職につきたくてもつけない場合、将来を見越してタダ働きをする場合がある。この場合、将来的にアピールできるような実績を得られるという点で、タダ働きであっても有益である。
  4. スキルが付く:タダ働きでも仕事はするわけだから、仕事のスキルはつく。会社で単純労働などをしていてスキルがつかない場合、タダで働くことでスキルを上達させることができる。人にもよるが、独習より外に開かれた形でやったほうがスキルが付く印象がある。
  5. 自由にコミットできる:例えば何か新しいことに関わりたかったとして、会社のように時間、職務に縛られず、なおかつ複数人で行動したいという場合は、タダでも組織的にやる価値があるだろう。
  6. 楽しい:例えば、そこでしかできない経験があり、それによって楽しさを感じるなら、十分にタダで働く動機になるだろう。

悪いサイン:多くのタダ働きはこれらを満たすことができなくなる

プロジェクトや組織が始まった最初のうちは、皆タダ働きには貢献してくれる理由があるということを知っている。だから、将来性や社会的意義も徹底的に吟味するし、最新の技術も使うし、自由な働き方も徹底させる。そして、そうしてできたグループでだいたい誰もが楽しむことができる。

さて、中をすっ飛ばして崩壊の話をしよう。実際のところ、なぜ崩壊するのかの過程はよくわからんのだ。とにかく、気がついたら崩壊している。気がついたならまだマシだ。崩壊フェーズでは、上記の動機のほとんど全てが満たされなくなる。ある機能不全が別の機能不全を呼び、最終的に全てが機能しなくなる。そのいくつかの断片を見てみよう。

  • 時間制限がつく:タスクに期日がついたり、1日や1週間単位で一定時間のコミットが求められたりして、「やらなければならないこと」が導入される。その段階で、5,6はほぼ瞬時に崩壊する。それらに重きをおいているなら早く逃げたほうがいい。
  • 特定のタスクを強いられる/できなくなる:最新のプログラミング技術を使いたいのに、なぜか気がついたらPhotoshopで上がってきたデザインをPHPに起こす作業をしている、もしくは議論に参加したいのになぜか偉い人だけが参加する会議ばかりになっているなど、本来やりたいことをする形で参加したのにそれができない場合がある。3,4,5,6はこの段階で望めない。それらに重きをおいているなら早く逃げたほうがいい。
  • 火が付いている:基本的にやりたい人がやりたいことをするスタイルでは、うまく回していくことは難しい。それぞれが各人の目標や将来像を持っており、まとまることも難しく、実際の作業の段階で揉めたりスタックすることも多い。それに気づいた発起人やリーダーの頭に突然火がついてめちゃくちゃなことを言い出す場合が多い。こうなっては将来の金銭的な利益も社会的評価もあったものではない。そういうものを得られる算段がなくなった段階で早く逃げたほうがいい。
  • 火が消えている:やりたい人がやりたいことをした結果、だらだらとやってしまい、それを見た他の人もだらけて最終的に誰も何もしなくなる場合が多い。気がついたら組織の目標は遠く、それに気づいた発起人やリーダーの頭に突然火がついてめちゃくちゃなことを言い出す場合が多い。そんな中で少しでもやる気のある素振りを見せたら、大量の皆がやっていないこと、もしくはよくわからない何かをやることになる。早く逃げたほうがいい。発起人やリーダーもだるくなった場合は逃げる必要もない。

これらは一定程度なら良い。スタートアップなら早くやる必要はなんだかんだいってあるし、最新の技術を触れるからという理由ですごいスピードで作れる人も多い。また、どうしてもやらなければならない単純作業などもあるだろう。リーダーにしても外との折衝などをやることもあるし、それと現状を鑑みて何か言いたくなることもあるだろう。しかし、それは一定程度までだ。何しろ金をもらっていないのだ。基本的に、私たちは強いられない。

逃げ方

もしタダ働きをしている組織が許せる範囲を超えてしまった場合、逃げること以外に方法はない。単にバックレても問題なさそうな場合はいいが、そうでない場合も多い。

  • 理不尽な引き止め工作:「君がいなくなったら〜をやる人がいなくなっちゃうよ」「頑張ってくれたじゃないか」などなど情に訴える場合があるが、この段階で相手にまともに改善点の指摘や立場などの交渉ができる可能性は非常に低い。また、この段階で「代わりの人を見つけてきてください、でないと抜けちゃダメです」とさらに強いられる場合がちらほらある。知るか。
  • 周囲との関係:タダ働きはオープンな環境でやることが多く、それゆえ内部外部で誰が逃げたなどの情報の流通がある場合も多い。その中には、親しい大切な友人もいるかもしれない。これについてはどうしたら良いのかは難しいが、とにかく誠実であることが重要だと思う。自分がなぜ抜けたか経緯をちゃんと説明でき、なおかつプロジェクトを責めることはあっても人は責めないということが重要だと思う。理不尽なことを言われたり強いられたりするのは、大抵プロジェクトの状況のせいだ。そうでない場合は、本当に困るが、大抵周りの人も困っているので、とにかくコミュニケーションが重要。

まとめ

この崩壊パターンは、実は金銭を得る仕事でもあまり変わらないということがわかるだろう。違いは、金銭を得られるなら強いられても問題ないが(それを超える場合もあるが)、金銭を得られないなら基本的に強いられないということである。リーダーの側からすると、金銭で人を束縛できない場合、プロジェクトを遂行するのはさらに難しいということになる。そのような難しさを考えて、双方が気持ちよく、なおかつうまくいくように知恵を絞る必要がある。