博士号を取るのにはやる気と資質があればいいって?

http://togetter.com/li/84314

ふざけるな。お前らの言い分には何の具体性もない。俺が見た限り博士号取得にはある程度具体的な障壁がある。まあもちろん内部にいてその環境が当たり前だから、障壁がわかりにくいというのもあるだろう。俺は12/28で体を壊して研究をやめた。だから外部の人間だ。外部の人間から見て、「やる気」とか「資質」とかが実際はどういう障壁を示しているのかを解説していく。あ、HCI系の話で、他の分野のことはまったく考えてないので。

この議論の参加者は、博士課程の利点をうまく機能させるためには選別が必要で、実際にそれを暗黙にやってることをみんな知ってて、その上でそこを曖昧な言葉で濁している。それじゃだめだよ。

やる気

これさあ、「何をやる気」なの?例えば今流行のARとかそういうものを作りたいって言っても、あれ16年以上前の技術だよ。それだったら「ずっとベッドから出ないで生きていきたい」のがずっと研究としてまともだ。何しろまだ実現していないし、実現の方法もわかってない。あと極めて学際的な分野のため、いろいろな研究室でできる。みんなが求めてることだから社会的意義もバッチリ。

つまるところ、その「やる気」は時流に合ってる必要があるわけだ。といってもその辺の人間の流行じゃなくて、研究者コミュニティの時流ね。その基準を知るのは比較的難しくない。

  • 本を読む:KAGEROUが割と売れているようだが、あれが数冊買える金で、研究分野がどうなっているかわかりやすく解説した本(リーダー)が買える。なかったら英語のを漁る。日本語の本がなかったらその研究には英語が必須なので、読めないやつはアウト。それを読んで何か具体的な策が思いつかなかったらアウト。
  • 歴史を知る:学問には成り立ちがある。特に新しい分野では、本当の意味で歴史をわかりやすく編纂している連中などいない。しかも、どの方向に皆が目を向けてきたかによって、今どういう研究がされているかがある程度決まってしまう。それは、自分の目で確かめるしかない。@rkmtとか@kougakuとかがtwitterでつぶやいてるけど、あいつらが一度研究に戻ったら、その段階で歴史が書き換わって人類がより進歩する。それはおいといて、歴史を知ると3つの可能性が生まれる。歴史を全部変えるか、どこか過去の時点の歴史から分岐させるか、既に分岐した今の状態から始めるか。どれもダメそうだったらアウト。
  • 現在を知る:つまり最近の論文を読むということ。今の状態から始める場合は、当然必要になる。過去から始める場合や、今の状態を全部ひっくり返す場合でも、今どういう基準で価値が評価されるかは、知った上で、出発点からそこまで持っていかなければならない。そこに持っていく道筋が思い浮かばなかったらアウト。

さて、「やる気、ありましたか?」

資質

資質って聞くと何か特別な才能とかを思い浮かべる人もいるだろう。事実特別な才能はかなり重要で、他がダメでもひっくり返せる可能性がある。

だが、資質ってのはもっと泥臭いところに存在する。まあ金とかはおいておいて、比較的泥臭いと思われる部分だけをピックアップしよう。

  • 健康状態:「自己管理が重要」とか聞くけど、あんなの建前。論文提出直前になったらどんなにきっちりしたやつでも寝ることはなくなるし、体や精神に爆弾を持ってるやつなら爆発してもおかしくない。身体とか精神に障害がある人間はそれだけでアウト。
  • コミュニケーション:いわゆるアカデミックライティング/プレゼンテーションとかは、研究がちゃんとしたプロセスにのっとっていれば何の問題もない。HCI業界にはやたらオシャレなプレゼンをする人間がいるが、必要ないと思う。それよりも、日常会話が重要。研究生活では何か問題が必ずおきるので、その際にちゃんと対処できないとアウト。親が死んでもポーカーフェイスでいられるくらいがお勧め。てんぱって変なことを言い出すやつはそのうち取り返しが付かないことになるのでアウト。
  • いざというときに逃げる能力:博士課程では人間が許容できないレベルの負荷がかかる可能性がある。そうなったら逃げるしかない。その際、教授や仲間の顔が思い浮かぶだろう。それを振り切って逃げなければならない。逃げればどうにかなる場合もあるし、逃げてどうにもならなかったらアウトだ。

具体的な研究の進め方とかにももちろん資質はあるんだけど、人の言うことを極度に聞く必要があって、その中で自分の考えを実現しなければならない場所から、極度に自立性とアイデアを求められる場所まであるので、一概になんとも言えない。

まとめ

つまり、「スタートとゴールを作りましょう」ってことと、「マネジメントは究極的には不可能なので、フォールトトレランスをしましょう」それができない人間はアウト。あと、気づいたのが、客観的な資質を主観的なやる気で補う必要があると同時に、主観的なやる気を客観的な資質で常に見なければならないということ。

これは俺の体験談に近い。自分が当たった障壁をまとめてみたみたいな。多分まともな議論をするには、多くの失敗者が体験を語る必要があると思う。